星虹堂通信

旧ブロマガ「スローリィ・スローステップの怠惰な冒険」の移転先です

2023-01-01から1年間の記事一覧

佐藤哲也『イラハイ』読書会に参加して思い出したこと

先日、知り合いがオンラインでやっている読書会で、8月に亡くなった佐藤哲也のデビュー作『イラハイ』(1993)を課題本にするというので、参加してみました。 普段は思想書をメインとする読書会なので、常連のみなさんがサトテツ作品をどう受け止めるのか、…

“意地悪ばあさん”の素顔〜『パトリシア・ハイスミスに恋して』

エヴァ・ヴィティヤ監督『パトリシア・ハイスミスに恋して』を観た。 25年以上も前に亡くなった作家の評伝が、ドキュメンタリーとして成立するのかと思いきや、意外に映像資料が豊富に残されていたことに驚いた。そして未発表(近年、書籍化された)の日記の…

幻のドラマを楽しむ〜『ふぞろいの林檎たちⅤ 男たちの旅路<オートバイ>・山田太一未発表シナリオ集』

先週、『ふぞろいの林檎たちⅤ 男たちの旅路<オートバイ>~山田太一未発表シナリオ集』(国書刊行会)を読んでいる最中に、著者である山田太一の訃報が届いた。享年89。 なぜこの脚本集を読んでいたかというと、12月2日に西荻窪の今野書店にて開催された、…

『ゴジラ-1.0』合評会

司会者 「えー、このつどいも前回から4年ぶり4度目となりました。山崎貴監督『ゴジラ-1.0』が公開されましたが、みなさん正直なところ、いかがでしたか? ネタバレ全開で参りましょう」 ゴジラファンA 「いやぁ、『シン・ゴジラ』が画期的なゴジラ映画だった…

ロジャー・ウォーターズのソロアルバムとして甦った『狂気』〜『ダークサイド・オブ・ザ・ムーン・リダックス』

Roger Waters - Speak To Me / Breathe (Official Lyric Video, DSOTM REDUX) - YouTube 今年はピンク・フロイドの代表作である『狂気』こと“THE DARK SIDE OF THE MOON”(1973)の発売50周年。発売◯周年のたびに新たなBOXセットを買わされるファンとしては…

初夏愚忙日記〜原始神母・シベリア少女鉄道・吉田喜重

×月×日 日比谷野外音楽堂にて、原始神母のライブを聴く。 今回は前半が「ピンク・フロイド/ライブ・アット・ポンペイ」の再現、後半は今年50周年を迎える「狂気」の全曲演奏。夏の黄昏時から夕闇に変わる頃合いに響くピンク・フロイド音楽は最高のかけ合わせ…

ロジャー・ウォーターズ「This Is Not A Drill」ツアー観賞記〜6/6@O2アリーナ

公式サイト 2023 European tour - Roger Waters “ピンク・フロイドの黄金期クリエイター”ことロジャー・ウォーターズのツアー「This Is Not A Drill」を6月6日、ロンドンはO2アリーナで観てきました。今回はそのライブレポートです。 前回の「US +THEM」ツア…

『TAR/ター』を観てシャンタル・アケルマンと北大路魯山人を思い出す日記

評判のトッド・フィールド監督『TAR/ター』を観てきました。 「多重の仕掛けが施されたサイコ・スリラー」とか「ジェンダー問題やキャンセル・カルチャーを諷刺する社会派ドラマ」などと語られることが多いようだけど、実際のところは、ある個性的な芸術家の…

上ノ郷城を歩く

土塁跡に建つ「上ノ郷城跡」の石碑 この春、3年ぶりに帰省した。新型コロナウイルスを警戒して控えていたのだが、どうしても自分で処理しなくてはならない事情が生じたため、ほんの一泊の里帰り。やるべき任務はすぐに終わってしまったので、ふと上ノ郷城に…

最近読んだ映画本2冊〜山根貞男『映画を追え フィルムコレクター歴訪の旅』と木下忍『木下恵介とその兄弟たち』

中学生の頃から文章に触れていた映画評論家・山根貞男が2月20日に亡くなった。享年83。 最後の著書がまさに2月に出たばかりだったと知り、追悼の思いで読んでみた。『映画を追え フィルムコレクター歴訪の旅』(草思社)。いやぁ、これは『探偵! ナイトスク…

深緑野分『スタッフロール』を読み、ジョン・ランディス『狼男アメリカン』を観る

年末からかかりきりだった仕事が一段落し、昨年の半ばから積んであった深緑野分の新作『スタッフロール』をようやく読めた。 前半は1960年代から80年代を舞台に、ハリウッドの特殊造形スタッフとして活躍した女性が主人公。後半は2017年のロンドンを舞台に、…