星虹堂通信

旧ブロマガ「スローリィ・スローステップの怠惰な冒険」の移転先です

海洋から宇宙へ〜Yuka&Chronoshipのワンマンライブ

f:id:goldenpicnics:20210430022038j:plain

Yuka&Chronoship “Dino Rocket Oxygen”

 3月の「ジャパニーズ・プログレッシヴロック・フェス2014」にも登場し、プログレファンの注目度が鰻上りのバンド、Yuka&Chronoshiphttp://omp-company.com/chronoship/)を最初に聴いたのは、2ndアルバム“Dino Rocket Oxygen”が出る直前のこと。正規版(フランス版)発売2ヶ月前に、諸行無常な野郎どもの吹きだまりであるディスクユニオン新宿プログレ館店内において日本盤のサンプルが流れた時のことだ。予告動画がupされているので、紹介しよう。

 

Yuka&Chronoship “Dino Rocket Oxygen”Trailer

 

 耳に流れ込んできたのは、YESやPFMを想起させるきらびやかなシンフォニックロックの世界、
「今どきこんな大仰な曲を正面からやるバンドがあったのか!」
 と心底驚いた。しかもジャケットとロゴデザインは大御所ロジャー・ディーン、さらに「恐竜組曲」、「ウは宇宙船のウ組曲」、「O組曲」という3つの大曲による構成など、あきらかにYESの名盤「危機」を念頭に置いたプロデュース、これで魂を鷲掴みにされないプログレファンはまずいまい。
 その場で購入したアルバムを通して聴き、確かな演奏技術と色彩豊かなメロディラインにあふれた音楽世界を堪能したものの、単なる70年代プログレの再生をめざす“復古調”バンドなら、さほど興味は持たなかったかもしれない。

 印象が変わったのは、念のため1st“Water Reincarnation”を聴いてみてからだ。ここには、船越由佳(キーボ—ド、ボーカル)のセンスが強く出たと思われる、水や空気といった“透明”なイメージを音でとらえようとする、テクニカルな癒し系のロックの世界が展開されていた。プログレ的な“思想”や“文学”趣味とはひと味異なる、さわやかな伸びのよい音とメロディ。ジャズロックフュージョンとしても充分楽しめる。
意外な幅広さを持つ有望なバンド……その彼らの2度目となるワンマンライブが4月6日に下北沢251で行われた。

 ライブハウスでも、きちんとイスが並べられているプログレ演奏会らしい会場(高齢者に2時間立ちっぱなしはツラいのです)。19時の開演には椅子席はほぼ埋まり、立見客も多くいた。見ると女性ファンもけっこういるようだ。
ライブは、プロジェクトが始まっておよそ10年、バンド結成から5年という歴史を振り返りながら、それぞれの節目となった代表曲を演奏する、まさに2014年の時点でのベスト・オブ・Yuka&Chronoshipな内容となった。

 まず、最初に作った曲として演奏されたのはフォークロック風の出だしからフュージョン色の濃い「勇者ヘクター」。ユカのコーラスがしっとりと会場を包み込む。
Yuka&Chronoshipは、シンガーソングライターの船越由佳、プロデューサー・作詞家の田口俊(ベース)という、J-POPの現場で長く活躍して来た二人が、普段の仕事では作れない曲を、というコンセプトでスタートさせたバンドである。やがて若手ギタリストの宮澤崇、熟練のドラマー田中一光が合流し、現在の体制になった。iTuneで曲を公開したところ、なんとフランスからCD出版の話が舞い込み、国内では無名なのに、いきなり世界31カ国でCDが発売されるバンドへと急成長。そんな展開もまさに21世紀のプログレバンドらしいではないか。

 こちらは2013年のフランスのプログレフェス“Prog Sud”に出演した時の動画。ちなみに1:10から演奏している曲がデヴューアルバムの冒頭を飾る「クロノシップ」だ。

 

 彼らの演奏を生で聴くのははじめてだが、繊細に構築されたアルバムと違うのは、やはり田中一光の生々しいドラムの迫力。宮澤崇の時に泣かせ、時に咆哮するギターもすばらしい。
 途中、MCで「ジャパニーズ・プログレッシブ・ロック・フェス2014」に出演した話題が出た。そのフェスには「新月」、「NOVELA」、「MOON DANCER」ら往年の名バンドが集結したのだが、
「オリジナルメンバーが少なかったのが……ちょっと寂しかったね。知り合いがベースやドラムやってるってのは、どうも」
 と田中が言っていた。その複雑な心中、お察し申す。



 そして、海外でのCD発売が決まり、英語の歌詞を加えて制作した「ウォーター・リインカネーション」、「ウは宇宙船のウ組曲」などが演奏され、2
ndアルバムの大曲群に移ってライブはクライマックスへ。
 椅子に座って腕組みし、「ウム」とか「よし」とかつぶやきつつ聴くプログレスタイルも悪くないけど、ノリのいい曲もたくさんあるんだから、若い観客といっしょに騒ぎながら聴いてみたい、とも思ったな。ユカさんをプログレ親爺のアイドルに押し込めてちゃもったいないぜ!




 今後の活動としては、まず船越由佳&宮澤崇のソロアルバムの制作。そして8月にはふたたびのフランスでのイベント出演(なんとトリ前の90分枠!)、そして3ヵ所でのフランス公演を経て、製作中の3rdアルバム完成へと向かうらしい。現在進行形のプログレバンドとして、次はどんなを音世界を見せてくれるのか楽しみでたまらない。



 140分近いライブを終えて、最後の挨拶。この時、宮澤が撮った写真が、



 コチラ(公式twitterより)。よ〜く見ると、私が心霊写真の地縛霊みたいに映ってる……。


Set list
1.勇者ヘクター
2.ホワイト・スコール、ブラック・スコール
3.海洋の巡礼
4.海洋神ポセイドン
5.クロノシップ
6.古代水族館
7.ウォーター・リインカネーション
8.ブルー・アストロノート・ヘリコプター(「ウは宇宙船のウ組曲」より)
9.重力離脱(「ウは宇宙船のウ組曲」より)
10.スカゲイザー~空を仰ぐ者(「ウは宇宙船のウ組曲」より)
11.O(「O組曲」より)
12.O2(「O組曲」より)
13.ダンス・ウィズ・ダイナソー(「恐竜組曲」より)
14.地球の支配者~ルーラー・オブ・ジ・アース(「恐竜組曲」より)
--------------------------
15.キリバス