星虹堂通信

旧ブロマガ「スローリィ・スローステップの怠惰な冒険」の移転先です

Yuka & Chronoshipの航海は続く〜6/30@吉祥寺シルバーエレファント



Yuka & Chronoship | 4th Album "SHIP" | Album Trailer
https://www.youtube.com/watch?v=H3qmjnl_VWY


 先週、現在進行形のジャパニーズプログレシッヴ・ロックを代表するバンドYuka & Chronoship(ユカ・アンド・クロノシップ)のワンマンライブを聴いてきた。
 会場は吉祥寺シルバーエレファント。


Yuka & Chronoship

 思えば、このブロマガがスタートして4番目に書いた記事が、Yuka & Chronoshipのライブレポートだったのですねぇ( 海洋から宇宙へ〜Yuka & Chronoshipのワンマンライブ http://ch.nicovideo.jp/t_hotta/blomaga/ar502174 )。

 あれから4年、はたしてどんな変貌を遂げたのか? ユカクロもワンマンライブは一年半ぶりとのことで期待が高まる。
 Sold Outで満員の会場が暗くなり、4人のメンバーが会場裏からぬっと登場。かき鳴らされるギターにピアノの調べがしずしずと乗ってスタートする一曲目は「勇者ヘクター」。4年前もコレでした。

 ユカさんの挨拶あって、4月に出た最新アルバム『Ship』の前半を成す大曲「アルゴ組曲のオープニングが始まる。なるほど、英雄ヘクターをモチーフとする一曲目から、ギリシャ神話つながりで「巨船ARGO」の伝説に想を得た新作組曲へと展開してゆくわけだ。


宮澤崇(guitars)

 Yuka & Chronoshipは、J―POPの世界で活動するシンガーソングライター船越由佳(keyboards,vocal)と、作詞家兼プロデューサーの田口俊(bass)が「商業の現場では受け入れられない曲を」と始めたバンドである。2ndアルバム『DINO ROCKET OXYGEN』はフランス、3rdアルバム『The 3rd Planetary Chronicles〜第三惑星年代記はイギリスと、海外のレーベルからCDを発売、ヨーロッパのプログレフェスにも積極的に参加するという独立独歩な姿勢も個性的だったが、4thアルバム『Ship』にて、ついにNexusレーベルから国内メジャーデビューを果たした。まぁ、こんな高水準バンドを長いこと放っておく日本のメジャーレーベルがどうかしてる気がするが、それだけ「プログレ」とは近づいてはならぬカルトなジャンル、無明世界に生きるオヤジどもしかおらぬ地底獣国と見なされているらしい。


船越由佳(keybord,vocal)と田中一光(drums)

 最新盤『Ship』は、SF志向の強いコンセプト・アルバムだった前作『The 3rd Planetary Chronicles 第三惑星年代記』よりも、さらに軽やか、ポップな味わいが濃くなっており、1st『WATER REINCANATION』の雰囲気に回帰しつつ、よく言えば洗練された、ネガティブにとらえれば若干おとなしくなった印象があった。シンフォニックな音の広がりと厚み、プログレらしいダイナミズムに満ちた構成が、やや後退したような……ムムム。
 が、ライブで実際に演奏されるのを聴いてびっくり、だいぶイメージ変わりますねぇ。
「アルゴ組曲」も、航海の荒々しさと、冒険神話のロマンティシズムが同居して、音で演出される劇場空間は一瞬も魅力を途切れさせない。特に組曲中間部の「眠らないドラゴン」から海流のなかの島々へ至るあたり、ギターとドラムの激しい音圧とその隙間を縫うキーボードとコーラスのからみによって、世界観をじょじょに塗り替えてゆく手つきは、Yuka & Chronoshipがなによりもまず優れたライブバンドであることを示していた。実際、30分を超える組曲が終わると、メンバーもヘトヘト、曲内の運動量の大きさを感じさせた。


左がプロデューサーの田口俊(bass)

 アルバム後半戦を演奏する前に、2ndから「ビヨンド・ザ・フェンス」「重力離脱」が、3ndからガリレオ2(地動説)」が演奏される。
ガリレオ2(地動説)」は、以前公式ビデオクリップが作成された曲なので、もしこのバンドに興味を抱いた方がいたら、一見をお勧めしたい。ユカクロの壮麗さ、繊細さが強く感じられる曲だ。

公式ミュージック・クリップ 「Galileo II Copernican Theory」
https://www.youtube.com/watch?v=P0UTtYZijY0

 そしてアルバム後半戦。
 MCで田口プロデューサーが手の内を明かしていたが、Yuka & Chronoshipの曲作りは、彼がコンセプトやモチーフ、歌詞などの素材を提供し、それを受けてがユカさん作曲する、という手順を踏んでいるそうだ。「ジャン ジローの飛行船」は題名どおり、フランスの画家ジャン・ジローメビウス)が描いた飛行船のイラストを元に発想した曲だそうで、ユカクロのつむぐメロディが、強い映像喚起力に満ちているのはそのためか、と膝を打った。
 今回のアルバムには、珍しく日本語歌詞によるボーカル曲「可視光」が入っているのだが、ライブではトラディショナルな味わいのフォーク風ロック「オールド シップ オン グラス」もアルバムとは異なる日本語歌詞バージョンで演奏してくれた(この日本語版、私はディスクユニオン特典で入手した)。歌詞の内容によって、この曲がじつは「アルゴ組曲」のエンディングとでも言うべき意味合いを持つことが強調される。


ゲストボーカル・伊豆田洋之登場!

 そして、ラストの「ディッド ユー フィンド ア スター?」。本来、ジョン・ウェットンに歌ってもらう予定でOKを取り付けていたが、ウェットンの死去によりお蔵入り寸前だったというこの曲、アルバムではPiccadilly Circusの伊豆田洋之が代役として歌っているのだが、なんと会場に伊豆田本人が登場。しっとりした歌声で「旅の終わり」を歌い上げてくれる。が、中間部で突然、聞き覚えのあるフレーズが……。なんといつのまにかキング・クリムゾン「スターレス」にすり替わっていたのだ。もちろんジョン・ウェットン追悼の意味合いだが、伊豆田ボーカルで「スターレス」のユカクロ版カヴァーが聴けるとは思わなんだ。これは驚きの大サービス!


伊豆田洋之が“Starless”を歌う!

 そして、伊豆田洋之といえば「日本のポール・マッカートニー」の異名を持つ男。それならば、ということでアンコール一曲目はポール・マッカートニーウィングスのカヴァーで「Live and Let Die(007/死ぬのは奴らだ)」! 終盤部では伊豆田&ユカのダブルキーボードであの独特なフレーズが奏でられ、会場は大いに沸き返る。
 最後の一曲は、定番キリバス。アルバムではコーラスとピアノを生かした繊細な曲だが、ライブ版ではギター、ドラムがスピーディーに攻め込んで音のエネルギーがぐんぐん盛り上がってゆくのが心地よい。

 田口プロデューサーのMCによると、今年はあと二回、秋と年末にワンマンライブを行う予定だそうだ。すでに次作アルバムのコンセプトと構成は決まっているという。メジャーの海に漕ぎ出したYuka & Cronoshipだが、メンバーたちはすでに大ベテランから中堅の手練れぞろい。気がはやって針路を見失うことはまずないだろう。マイペースで彩り豊かな航海を続けていってもらいたいし、彼らにしかできない実験や妖しげな試作品、船越由佳の個性がさらに強く出た現代のプログレッシヴ・ロックをぜひ聴かせてもらいたいと思っている。



set list

1. 勇者ヘクター
2. アルゴ組曲〜船首像の涙
3. 〜ザ シップ アルゴス
4. 〜上陸
5. 〜金羊毛
6. 〜眠らないドラゴン
7. 〜海流のなかの島々
8. 〜帰還
9. ビヨンド・ザ・フェンス
10. 重力離脱
11. ガリレオ2(地動説)
12. ジャン ジローの飛行船
13. 可視光
14. オールド・シップ・オン・ザ・グラス
15. ディッド ユー ファインド ア スター?(ボーカル:伊豆田洋之)
-------------------------------------------------------------------------------
16. 死ぬのは奴らだ(ボーカル:伊豆田洋之)
17. キリバス