星虹堂通信

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『GODZILLA ゴジラ』合評会



 司会者 「えー、5月の全米公開から話題沸騰のギャレス・エドワーズ監督『GODZILLA ゴジラ』がようやく日本でも公開されました。みなさんの感想をうかがいたいと思います。ネタバレ全開で参りましょう。正直なところ、いかがでしたか?」

 怪獣ファン 「ローランド・エメリッヒ監督の『GODZILLA』(1998)は完全に『原子怪獣現わる』のリブートみたいなモンスター映画になっていたけど、こっちはちゃんと日本の『怪獣映画』として成立していましたね。ゴジラと新怪獣ムートーのキャラクターをたっぷり楽しませてもらいました」

 初代原理主義 「冗談じゃない、『ゴジラ』のリブートだと思って観に行ったのに、中身は『ガメラ 大怪獣空中決戦』じゃないか。破壊と恐怖の象徴でないゴジラにオレは興味ないよ。ゴジラはもっと恐くなきゃあ」

 SFファン 「ギャレス・エドワーズ監督の前作、『モンスターズ 地球外生命体』(2010)は、怪物がいる世界で展開する丁寧なロードムービーだっただけに、今回も『ゴジラが出現した世界』の緻密なシミュレーション展開を見せてもらえるのかと期待していたので、そうじゃない物語にちょっと失望しました」

 映画ファン 「おいおい、みんな先に『見たいもの』を固定しすぎてるんじゃないかな。今回のゴジラは日本での60年の歴史とその幅広いキャラクター性をリスペクトした上での設定だと思うよ。アメリカ国内で戦争状況を再現するとか、人間のパニック状況をシミュレートするとかが狙いのモンスター映画は、スピルバーグの『宇宙戦争』や、マット・リーブスの『クローバーフィールド HAKAISYA』など、いくつもの先行例が出てしまっているからね。後追いにしなかったのは賢明な判断だよ」

 カメラマン 「『モンスターズ 地球外生命体』に続いて、手持ちカメラで臨場感見せるショットも多いんだが、きちんとレイアウトしたカットとの使い分けが巧みだったと思う。さらにテレビのニュースや作戦本部モニターなど、二次映像を構築して世界感を表現する手も、今やすっかり定番ではあるものの、焦らしのテクニックとして使うなど、やはりうまいね」

 特撮ファン 「VFXマン出身のエドワーズ監督、今回は『スターシップ・トゥルーパーズ』や『ロード・オブ・ザ・リング』のジム・ライジールを特殊技術に迎えて、ひときわ度量の大きい演出を見せてるわね。パラシュート部隊が急降下してゆく場面や、トンネルの中から燃える列車が現れるカットなんて、シビれたわ。ゴジラ出現と共に発生する津波の描写や、アーロン・テイラー=ジョンソンがモノレールの中で子供を助ける場面も臨場感ありすぎで心臓に悪いくらい」

 皮肉屋 「しかし進むゴジラの背びれを囲んだアメリカ艦隊、いくらなんでも接近しすぎじゃないかね。あれじゃゴジラがちょっと身を起こせばたちまち座礁だぜ」

 スピルバーグファン 「いや、むしろゴジラを艦隊の旗艦のように見せる絵なので、あれでいいんです。そういうこと言い出したら、ムートーの巣にパラシュート部隊で接近する意味だってないもの。前半1時間、背びれだけで存在を主張させる『ジョーズ』のやり口や、『未知との遭遇』のラコーム博士っぽい芹沢博士など、スピルバーグ先生からの引用にニンマリさせられたよ」

 批評家の幽霊 「まったく、アメリカ映画ばかりよくできていてシャクにさわるねぇ。こりゃ日本では怪獣映画なんてもう二度と作れないんじゃないかな」

 霊感青年 「おやおや、初代『ゴジラ』の封切時に『原子怪獣現わる』のほうがよほどよくできていてシャクにさわる、と寝言をほざいてたI沢さんが甦ってきたようだぜ」

 脚本家志望者 「今回の『ゴジラ』、アーロン・テイラー=ジョンソンとブライアン・クラストンの親子のドラマが主軸にあるんだけど、原発事故やら反響定位などを取り入れているわりにうまく反映できてないし、主人公と作戦本部の面々とのからませ方もぎこちなかったわね。爆発物処理の人なのに、結局、爆弾を処理できないってのはどうなのよ。改めて『ガメラ 大怪獣空中決戦』や『ガメラ2 レギオン襲来』の脚本を書いた伊藤和典はたいしたものだったと思うわ」

 ガメラファン 「最後はいっそ誰かに『ゴジラの敵にはなりたくないね』と、『ガメラ2』のセリフを言わせてほしかったな……。ところで、平成ガメラ遺伝子工学によって生まれたギャオスを倒すための人造生物だったわけだけど、なんでゴジラはムートーをハナから天敵として認識してるの?」

 設定マニア 「芹沢博士は『自然界の調和を取り戻す意志を持っているのでは』と推測してましたが、もともと放射線をエサとするムートーは歩く原子炉みたいなゴジラに卵を産みつける性質があり、ゴジラは本能的にムートーを滅ぼそうとするんだそうです」

 平田昭彦ファン 「渡辺謙は『芹沢博士』という役名だからなにか画期的な発明をするのかと期待したのに、なにもしなかったのが物足りん」

 パシフィック製薬社員 「いや、彼の提案でゴジラ対ムートーの怪獣プロレスが実現したのだから、最重要人物です。『キングコング対ゴジラ』における多胡部長に匹敵します。実際、アメリカのモンスター映画でこれほど人類が役に立たないのは珍しいから、意図的なものだと思いますよ」

 日本映画ファン 「ぼかぁ『ゴジラ84’』で各国首脳から核兵器の使用を薦められながらも反対する首相(小林桂樹)と、今回の芹沢博士がダブッて見えましたがねぇ。ところで、第一作の主演だった宝田明が出ていると聞いたのだけど見つけられなかった。見逃したかな」

 事情通 「空港の入国審査官としてカメオ出演していたけど、結局カットされたそうです」

 フランス映画ファン 「『ジュラシック・パーク』を蹴ったジュリエット・ビノシュが満を持して『ゴジラ』出演、と期待したのにあれだけとはね。怪獣とからまないからOKしたのかしら」

 ビオランテファン 「私はてっきり原発事故から逃げ遅れたジュリエット・ビノシュが怪獣になるのかと……。夫のブライアン・クラストンが狂気の科学者に変身して、ね」

 帰りマンファン 「ムートーはせっかく雄雌2匹いるんだから、もう少し連携攻撃に芸を見せてほしかった。エドワーズ監督は『帰ってきたウルトラマン』の13話、14話におけるシーゴラス&シーモンスの活躍を見てないのではないか」

 クローバー 「あいつらは私のイトコです。私の主演映画ではわかりにくかったと思いますが、私も母親を探してマンハッタンをうろついていたのですよ」

 漢江の怪物 「ムートーくんにも、もっと文化的な趣味を持っていただきたかったね。美少女を誘拐して愛でる、みたいな」

 電力会社社員 「ムートーが電磁パルスを発して周囲の電力をダウンさせる描写、電力社会のもろさを表現する設定だけど、もう少し生活に密着した恐怖を演出してもよかったかもしれない。主人公の奥さんは病院勤務なんだし。ただの都市破壊とは違った恐さを出しておけば、対するゴジラのイメージにも変化を与えられたのでは」

 ヘドラファン 「人類が『核』をいじるようになったがために発生した怪獣、というのは『ゴジラ対ヘドラ』を思い出させて嬉しいね。さすが坂野義光監督が製作総指揮なだけはある。それだけに都市破壊の描写にもっとオリジナリティがほしかった、とは私も思う。別に911とか311とか現実の事故や災害の記憶に近づける必要はないんだ。ほら、あるでしょう、麻雀屋のサラリーマンが襲われるとか、百万人ゴーゴー大会に集まった若者が全滅するとか。それがあればゴジラのキャラはさらに立ったはずだ。いや、空を飛ばせと言ってるわけじゃないよ」

 裏目読みの男 「クライマックスではサンフランシスコのチャイナタウンが蹂躙されるが、これはアメリカの中国に対する心情を表した演出だとニラんだね」

 懐疑論 「いや、見上げるアングルを作った時、中華門やら赤い提灯やら、手前にひっかけられる要素が多いからにすぎないと思いますよ。なんといっても3D映画ですからね」

 ドラマファン 「冒頭、夫婦の別離で始まる物語だけど、その後は父子の再会に始まり、数々の『再会』が描かれますね。怪獣でさえ雌雄が再会する。悲劇の根底には別離があるけど、その傷を癒やすことのできる『再会』を、われわれはこれからの社会でどれだけ築くことができるでしょうか。そんなことを気づかせてくれた、10年ぶりの『ゴジラとの再会』映画とも言えるんじゃないでしょうか」

 海外通 「ところで、気になる続編ですがモスララドンキングギドラが登場するという噂が早くも出回っています」

 モスラファン 「本当ですか、それなら『三大怪獣地球最大の決戦』ですね。小美人は出るのでしょうか」

 マジックファン 「ラスベガスで活躍中のAi and Yukiにやらせたらいいんじゃないかしら」

 ツッコミちゃん 「うひー、小美人がモスラ呼びながら手品見せるんかい」

 重箱の隅をつつく男 「ちょっと待て、主人公の実家の飼育用水槽に『MOTHRA』って書いてなかったか。どういう世界観になるんだ、それは」

 予言する女 「だからアレよ、子供がひそかに育てたワケありのカイコがいつしか巨大化して……」

 ゴジラファン 「って、また『ガメラ』じゃねーか!(泣)」


渋谷で開催中の「G博」にて ミレニアムゴジラの勇姿