星虹堂通信

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シン・ゴジラ合評会


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 司会者 「えー、昨年の製作発表から話題沸騰の庵野秀明総監督・樋口真嗣監督の『シン・ゴジラ』、ついに公開となりました。2年前の『GODZZILA ゴジラ』にひき続き、みなさんの意見をうかがいたいと思います。ネタバレ全開で参りましょう。正直なところ、いかがでした?」

 ゴジラファン 「来た、見た、面白かった」

 東宝特撮ファン 「これこそ私が見たかったゴジラだわ! 圧倒的な恐怖にして巨大な災厄の象徴。『原子怪獣現わる』のリメイクみたいだったローランド・エメリッヒ版や『ガメラ 大怪獣空中決戦』のおさらいみたいだったギャレス・エドワーズ版とも違う、超越者としてのかっこいいゴジラを見せてくれたことに大感謝!」

 SFファン 「過去のゴジラ映画が第一作の世界観をいかに後継・発展させるかで困難にぶちあたっていたのに対し、完全にまっさらな状態、『過去にゴジラ襲来も原発事故も起こっていない日本に大怪獣が出現したら?』という原点回帰の仮説に基づくシミュレーションに徹底させている点、じつに明快なSF映画です」

 映画ファン 「ありがちな湿っぽい恋愛描写だとか、主人公の過去の因縁だとか、食傷気味のかったるい描写が差し挟まれることなく、徹底して行政の動きだけを追ってゆく作劇も潔いね」

 怪獣ファン 「ゴジラ巨神兵みたいな熱線を吐く描写で泣きました。よくぞ作った作らせた! もっとも、ギャレス版『GODZZILA ゴジラ』も、ギレルモ・デル・トロ監督『パシフィック・リム』も、日本の怪獣・特撮映画への愛情がしっかり感じられる作品だったので、家元である東宝が堂々と進化したゴジラのイメージを提示できたのは喜ばしいことです」

 三枝未希 「あのゴジラには、私のテレパシーすら通じそうにないわ……」

 ヘドラファン 「核廃棄物という公害によって生みだされた巨大なオタマジャクシが、だんだん成長して怪獣に……うむ、この作品、正しくは『シン・ヘドラ』でしたね」

 漁師 「最初のゴジラ多摩川を上って来るあたりの不気味さ、5年前の津波被害の記憶を呼び覚まされてヒヤッとしたね。その直後、登場した第二形態のゴジラが『ラブカ』に似て可愛くも不気味なのがいいね。ちなみに最近じゃわれわれは『ヨロイザメ』のことをゴジラって呼んでるんだぜ」

 生物学者 「生物は脱皮や変態の途中がもっとももろいのですが、そこを自衛隊が攻撃しようとした瞬間、逃げ遅れた被災者が射線上に見つかり、攻撃できなくなるという展開もウマいなと思いました」

 消防士 「ゴジラを冷却するため何台もの高圧ポンプ車が押し寄せるクライマックス、どうしたって原発事故の冷却作業を思い出しますよね。いろんな記憶を呼び覚ます被災描写がつまってました」

 樋口真嗣ファン 「作家性は庵野監督のものかもしれないけど、特撮の技術面や破壊描写では、平成ガメラシリーズから『進撃の巨人』まで、<大状況>の表現にこだわる樋口テクニックの集大成と見たね。しかし、まさかクライマックスで『新幹線大爆破』が見られるとは! 無人在来線爆弾はアイディアも描写もじつにケッサクでしたね」

 スピルバーグファン 「いやいや、あんな大胆な作戦が唐突に描かれるってのはどうなのよ? 無人機による遠隔攻撃と近接しての冷却剤注入の切り返しサスペンスも、もう少し丁寧に描いてほしい。全体にお話もキャラクターも一本調子で薄味にすぎませんかね。スピルバーグ先生の『宇宙戦争』なら、一市民の視点による大状況を通じて現代アメリカそのものを描いていたのに、こちらはもっぱら会議室とゴジラ場面の往復で、映画として含蓄に乏しい気がしたね」

 アニメファン 「まぁ、庵野監督は『トップをねらえ!』のカルネアデス計画にしろ、『エヴァンゲリオン』のヤシマ作戦にしろ、ミッション遂行のシチュエーションとそのメカニズムを描くことに執着する方ですからね。しかし、まさか『ゴジラ』でそっち方向に振り切ってくるとは思いませんでした」

 脚本家志望者 「怪獣出現のシミュレーション描写は平成ガメラシリーズでも少しやっていたけど、アチラは会見する官房長官以外、大臣クラスが出て来ないのがミソだったんですよ。しかし『シン・ゴジラ』は、いきなり総理大臣と閣僚が登場するので勝負に出たなぁ、と。しかも彼らが途中で全員退場という展開はヤラレタ、と思いました」

 押井守ファン 「あの細かいカッティングによるリズム重視、会議、会議の連続による状況描写は岡本喜八監督『日本のいちばん長い日』を意識したもので、そこから『独立愚連隊』の活躍へと流れて行くのが狙いなのはわかるんだけどさ、キャラの個性がハナシに生かせてないので、うまくスライドできてないよ。劇場版『機動警察パトレイバー』あたりの巧さにくらべると中途半端だな。だいたい、キーパーソンが冒頭で死ぬってのも『劇パト』の二番煎じだろ?」

 同人作家 「いや、描かれないからこそ妄想で補完することができるのです。我々にとってはむしろキャラ描写はあの程度で充分かと」

 反米左翼 「日本と米国の力関係をあんなマンガチックな女を挟み込んでごまかすとはいったいどういうことだ? 石原さとみと会話するアメリカ政府高官の顔が映らないってのは、岡本版『日本のいちばん長い日』における昭和天皇の役割が彼なのかね。ちょいとシラけたな」

 昭和特撮ファン 「石原さとみの役は、ミッキー・カーチス大月ウルフが演じれば完璧だったのに、と思ってましたが、最後の方になると昭和ガメラにおけるジム少年やトム少年を見てる気分でほのぼのしました」

 ミステリファン 「ところで、石原さとみの背後に立っていたのは杉江松恋さんですか?」

 市川崑ファン 「デザインされたレイアウトを軽快なテンポで畳みかけ、役者の熱演を避けてクールで早いセリフ回し……ウン、まさしく市川崑の遺伝子を受け継ぐ作品ね。セリフ回しの早さは『結婚行進曲』を思い出したわ。市川実日子はあの映画の杉葉子に匹敵するヒロインね」

 旧作邦画ファン 「でも『結婚行進曲』には浦辺粂子が一人だけスローリーなセリフ回しで笑いを誘う演出が仕込まれていたでしょ? 2時間に収めるためとはいえ、演出にメリハリが乏しいのは否めない」

 映画音楽家 「それに、せっかく斬新なゴジラ像を提示して見せたのに、肝心なところで伊福部昭の音楽が鳴り響き、昭和ゴジラの記憶へと回収されてしまうのは惜しいというか、マニアの自己満足臭が強くて辟易したな。旧作へのオマージュは冒頭の東宝マークとタイトルで充分だったんじゃない? 鷺巣詩郎が自作のモチーフを使い回すのはぜんぜんかまわないんだけど」

 84ゴジラファン 「原点回帰を謳いながら音楽が新曲で統一されていたため、『なぜ伊福部音楽を使わんのか!』と非難された例がかつてありましてね……。庵野さんは学生時代のアニメ『じょうぶなタイヤ』のBGMですでに伊福部マーチを高鳴らせていた人ですから、彼にとってはゴジラだけでなく伊福部昭を現代人に啓蒙する、これが今回の課題のひとつだったのでしょう」

 理屈屋 「『84ゴジラ』が冷戦だの核ミサイルだの原発だのと社会情勢のトレンドをたっぷりまぶしながら、まったくリアルに感じられなかったのに対し、『シン・ゴジラ』では、災害や避難民の描写が3.11という現実に裏打ちされているため、その描写が断片を示すだけで背後にある悲劇を観客が容易に想像できてしまう。ゴジラという時代によってキャラクターを変化させてきた怪獣が今、非常に説得力を持ち得ているというのは時代の暗さの反映なのか、庵野総監督の技量なのか……」

 政治不信の男 「しかし現実の政治家と官僚たちがゴジラに遭遇したら、情報を隠蔽したり、ポジション争いをしたり、足の引っぱり合いばかりで大混乱するに決まっとるではないか。新たなゴジラ映画が露呈すべきは『この国の脆弱さ』であるべきだヨ」

 政治家 「そりゃあ、現実は3.11の時に見た通り。でもね、娯楽映画の世界ぐらいは理想の行政執行者たちの奮励努力を見たいじゃないの。次から次へと決断を迫られる大杉蓮総理、ツラそうだったのう」

 初代原理主義 「じつを言うと、私も気になったのはそこでね。第一作のゴジラには、科学が生み出した脅威と、科学者の絶望が同時に描かれ、それが現代文明への警鐘というテーマにつながっていた。しかし『シン・ゴジラ』は、ゴジラの襲来を『国難』ととらえ、それを抑え込むための行政のチームワークを描く内容なので、彼らの活躍によって観客が刺激されるのは、そこはかとないナショナリズムということになってしまわないだろうか。『この国はまだ大丈夫だ』などと主人公が簡単にうそぶくのは気になったな」

 映画史家 「『国難』に科学で対抗する特撮映画なら『地球防衛軍』、『妖星ゴラス』、『宇宙大戦争』などありましたが……今、それをゴジラでやっていいのか、という問題ですね」

 彫刻家 「それについては、ラストで冷却されたゴジラが崩壊したり海に帰ったりすることなく、東京のど真ん中にデーンと居座っている、というところに意味を見出したいわね。ずっと消え去らない、いつ動き出すかもわからない負のモニュメントとして君臨し続けるゴジラ。あの世界ではゴジラ像が新たな原爆ドームとして語られてゆくのでしょう」

 真船博士 「牧吾郎元教授は妻を原爆症で亡くしたという設定なのに、『日本を恨んでいた』とはどういうことだろうか。やはり巨大生物に関する新説を唱えて学会を追放されたのだろうか」

 岡本喜八ファン 「牧吾郎元教授には岡本喜八監督の写真が使われていましたね。あの瞬間、冒頭の場面で羽田沖に浮かんでいたプレジャーボートが、『肉弾』のラストシーンで浮かぶドラム缶につながっていたのだ、と腑に落ちました。70年前の戦争にしろ、5年前の津波にしろ、『死者を忘れるな』というメッセージを搭載したゴジラだったのかもしれません」

 心配性 「しかし、これだけ庵野秀明の作家性に傾いた作品を撮られると、ゴジラの今後はどうなってしまうんでしょうか。庵野&樋口&尾上トリオで続編を作ってもらえるんでしょうか」

 楽観主義者 「いや、『シン・ゴジラ』が最後の一匹とは思えない。この作品に刺激を受けた者たちによって、必ず、第二、第三の新たなゴジラが現れ、ハリウッド版ゴジラと切磋琢磨しながらさらなる成長を遂げるに違いない。私は、そう信じているよ」

 アンギラス 「ゴジラの兄貴ばっかりカッコよく再生されるなんてズルいよ。『シン・ゴジラの逆襲』製作の暁にはオイラも21世紀の暴龍として大暴れさせてもらいたいもんだね」

 小美人 「ラドンも『そうだ、そうだ』と言っています」

 ガメラ 「オレもずいぶん前からアップを始めてるんだけどね……」