「こんちはー、今年のベストテンをうかがいにまいりましたー」
「三河屋の御用聞きみたいに現れるな、君は」
「そんな昭和な例えじゃ、わかる世代はもう限られてますよ」
「今年も忙しい中、新作映画をまめに観て歩いたけど、アンテナの感度が鈍ったのか、あまりのめり込めるものがなかった。疲れがたまるばかりでね」
「つまりトシを取ったと?」
「かもね。それに、テレビドラマや配信系の映像作品など、『映画』の成り立ちが複雑化した今、劇場公開作品に限定した形でベストテンを選ぶことの意味なんて、ほとんどないでしょう」
「そんなもん個人の思い出以上のものがあるわけないじゃないですか。リアルタイムの資料として記録しておけばいいんですよ」
「確かにね。なので、2019年で選ぶのはしんどいが、せっかくの10年代最後の年、『2010年代に映画館で観た作品のベスト・テン』というくくりで選んでみることにしたよ。10年後には『劇場公開作品』に限定した選出なんて価値がなくなりそうだからね」
「ははは、そもそも2029年には生きてるかどうかも怪しいじゃないですか。では、さっそく見てみましょう」
1.マッドマックス 怒りのデス・ロード(2015)
監督:ジョージ・ミラー2.スリー・ビルボード(2017)
監督:マーティン・マクドナー4.ダンケルク(2017)
監督:クリストファー・ノーラン6.ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール(2014)
監督:ロジャー・ウォーターズ&ショーン・エヴァンス7.ヱヴァンゲリヲン新劇場版:Q(2012)
監督:庵野秀明8.バーフバリ 王の凱旋(2012)
監督:S.S.ラージャマウリ9.LEGO(R)ムービー(2014)
監督:クリス・ミラー&フィル・ロード10.ダークシステム[完全版](2013)
監督:幸修司次.神々のたそがれ(2014)
監督:アレクセイ・ゲルマン次.親密さ(2012)
監督:濱口竜介
「ほほう、1位は『マッドマックス 怒りのデス・ロード』。なんだ、ブログ『男の魂に火をつけろ!』がやったアンケート結果(http://washburn1975.hatenablog.com/entry/2019/12/22/221931)と同じじゃないですか」
「トシをとって感性が平均化されてしまったのかなぁ、と思いつつやはりコレしかなかったのだ」
「2010年代の1位が『マッドマックス』とジョージ・ミラーでいいんですかね。あまりに後ろ向きでは?」
「でもね、往年のコンテンツとクリエイターが、新たな視点を経て『更新』を果たすのも、21世紀映画の重要な方向性だと思うんだな。以前は業界のネタ切れだと批判的に見ていたが、これはこれで映画文化の成熟を示すものだと考え直した。その最大の達成をジョージ・ミラーが果たした、というのは大きいよ」
「なるほど。2位は『スリー・ビルボード』、これも去年の大評判作です」
「ミステリ映画としての面白さに加え、ブラックコメディとしての味わいも非常に巧みで、画の切り取り方も好みだった。マーティン・マクドナーは劇作家出身だが、本来映画志向らしいね。これから長い付き合いになりそうな監督だな」
「3位は『かぐや姫の物語』。高畑作品は相性が悪いと言ってませんでしたっけ?」
「凄い演出家だと思うけど、あまり見返したくならないし、視点の置き方がいちいち気に障るんだな。しかしこれは原作への目の向け方と解釈の方向性が私の趣味にぴったり。『セロ弾きのゴーシュ』(1982)以来の傑作と思いました」
「4位はこれも苦手と言っていたクリストファー・ノーラン』
「鈍重で下世話な印象があったノーランだけど、『ダンケルク』を3度観たら、根本的になにか読み間違えていたかもしれない、という気持ちになった。来年の新作公開の前に、また全作品見返してみたい人です」
「5位はタル・ベーラ。今年は伝説の『サタンタンゴ』(1994)が一般公開されましたね」
「ようやく観ましたよ、7時間18分の大作を。先に『サタンタンゴ』を観たらどう思ったかわからないけど、やはり『ニーチェの馬』は彼の到達点だったんだなぁ、という思いを深くしたのでここに入れました」
「そして6位に『ロジャー・ウォーターズ ザ・ウォール』。このブロマガで詳細な記事を書きましたね」
「2010年代は、ロジャー・ウォーターズが新作アルバムを出すだけでなく、『ザ・ウォール』と『US+THEM』の2本の映像作品を完成させたという、長年のファンとしては特別な年代となったわけだから記録に残さないわけにはいかない。しかもいずれも完成度がすばらしいんだからね」
「7位はまた日本アニメですか。庵野監督なら『シン・ゴジラ』じゃなくていいんですか?」
「2010年代の日本映画を代表する作品として『シン・ゴジラ』が挙げられることに異論はないけど、私が強く支持したいのは『ヱヴァQ』の方なのね。来年の完結篇と『シン・ウルトラマン』への期待を込めてランクインさせました」
「8位は大評判になったインド映画ですね」
「もちろん1作目の『バーフバリ 伝説誕生』と合わせた上でのこの評価と思っていただきたい。堂々のスター映画であると同時に、日本の時代劇、マカロニ西部劇、香港活劇の遺伝子を受け継いだ現代娯楽映画。ハリウッドのアメコミ映画もいろいろあったけど、この作品のインパクトを超えるものはなかったな」
「9位の『LEGO(R)ムービー』は2014年度のベストワンに挙げてましたね」
「私が選ぶ以上は、コメディ映画を混ぜておきたいと思ってさ。マシュー・ヴォーン『キック・アス』(2010)やゴア・ヴァービンスキー『ローン・レンジャー』(2013)もよかったけど、やはりCGアニメから選ぶことにした。クリス・ミラー&フィル・ロードのチームはこれからも期待できそうだしね。今年公開のパート2も面白かったよ」
「10位の『ダークシステム[完全版]』は自主映画ですよね?」
「Hey!Say!JUMPの八乙女光が主演した連続ドラマ『ダークシステム 恋の王座決定戦』(2014)の原作になった傑作だよ。私としては『カメラを止めるな!』(2017)以上に感銘を受けた低予算コメディさ」
「ググってみましたが監督の幸修司さんは現在、脚本家として活躍されてるみたいですね」
「監督としての新作も期待したいところだ」
「そして次点が2本。まず、アレクセイ・ゲルマン監督の遺作『神々のたそがれ』」
「ゲルマンの変わらぬ映画力に敬意を表して入れたかったがはみ出ちゃった。でも、邦題は『神様はつらい』のままにしてほしかったなぁ」
「『神様はつらい』じゃ、なんだか寅さんが出てきそうですよ。もう一本の『親密さ』はENBUゼミナールの卒業制作で4時間以上ある映画なんですね」
「濱口竜介監督はその後、『ハッピーアワー』(2015)や『寝ても覚めても』(2018)で第一線の監督に躍り出たけど、私としては『親密さ』の劇構造がいちばん刺激的だった」
「こうして1ダースの作品を見渡すと、なかなか面白い映画が登場した10年だったんじゃないですか? 次の10年はどうなるんでしょう」
「私はわりと楽天的に見てるんだ。これからMCUをはじめとするアメコミ大作と、Netflixなど配信系が製作する映画がせめぎあって、豊穣な作品市場を生み出すのか、いずれもタコツボ化して映画観賞という行為自体が好事家のものへと閉じてゆくのか、それはわからない。だけど、映画が技術の進化と世相の変化を反映しながら進歩する総合文化なのは今後も変わらないだろう。ハードの発展によって、思いもよらぬところから思いもよらぬ『映画』が飛び出してくればいいんじゃない?」
「なるほど。でも、この12本に今年の作品は入らない……と」
「たまたまだよ。ようやく『スター・ウォーズ』9部作が完結するかと思えば、『寅さん』が復活する2020年の正月映画界だからね。来年も何が起こるかわからない」
「年明け早々にはポン・ジュノの新作も待っていますよ」
「映画ファンは常に“Always Look on the Bright Side of Life”の精神で行きましょう」
「それではみなさん、来年もよろしくお願いします」