星虹堂通信

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『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』合評会



 司会者 「えー、5年前の『GODZILLA ゴジラ』、3年前の『シン・ゴジラ』に続き、マイケル・ドハティ監督『ゴジラ キング・オブ・モンスターズ』が公開されました。今年もみなさんの意見をうかがいたいと思います。正直なところ、いかがでした?」

 東宝特撮ファン 「いやぁ、『三大怪獣 地球最大の決戦』がこの規模とクオリティで甦るなんて、生きててよかったと思いました。昭和ゴジラだけでなく、平成ゴジラシリーズまですべて見渡してオマージュを捧げた、究極のファンムービーと言っていいでしょう」

 せっかちな男 「前作では、怪獣バトルを見せてくれるまで焦らしまくりでイライラさせられたもんだが、今回は出だしから怪獣たちが惜しみなく登場してくれるので、ストレスがかなり軽減されましたね」

 怪獣ファン 「とにかく怪獣美の極致であるキングギドラの勇姿、これに尽きますね。あの羽を伸ばしたシルエットの美しさに、操演技術では困難だった、首ごとの個性を感じさせる表現。いっそゴジラに勝ってほしかった……」

 航空ファン 「火山から登場するラドンイカすじゃないの。衝撃波による災害描写も迫力満点。戦闘機とのドッグファイトなんてまさに『こんな絵が見たかったんだよ、オレは』と泣きそうになったよ」

 カラーコーディネーター 「海から現れるゴジラは青、火山から現れるラドンは赤、そして嵐の中心で稲妻を光らせるキングギドラが黄色、と明確に色分けされているのも目に快いですな」

 昆虫マニア 「しかしモスラが滝に繭を作ったり、嵐の中を飛んできたりしたけど、あれじゃ羽が濡れて困るでしょ。成虫になってもまだ粘着糸を吐いたりするのもオカシイ。やはりモスラは鱗粉攻撃でなきゃあ」

 円谷ファン 「それ言ったら、初代モスラはそもそも殻つきの卵から生まれたし、幼虫は海を泳いでやって来たじゃないの。怪獣映画にクソリアリズムはいらんですよ」

 ガメラファン 「視覚面で見ごたえあったのは認めるけど、内容面では前作のギャレス版同様、平成ガメラのイタダキというか、はっきり言って雑にまとめた感じでしたね。ゴジラは地球の守護神で、外来種の侵略を防ごうと奮闘、一方で人間ドラマは怪獣災害の被害者が中心になる展開……」

 比良坂綾奈 「怪獣災害で家族を失った科学者が、世界中の怪獣を解き放とうとする、というのはよくわかりませんね。あの鉄人28号のリモコンみたいなやつでゴジラかギドラを操り、世界の怪獣を殺して回る、というのならわかるんですが」

 ウルトラマンアグル 「人類こそ地球にとってのガン細胞、地球を守るには怪獣を保護し、人類を排除する必要がある……。私の20年来の持論がアメリカでこんなに大きく取り上げられるとは感慨深いものがあります」

 小松左京ファン 「あの環境テロリストたちは将来、ジュピター教団の創始者になるとニラんだね」

 SF映画ファン 「人間ドラマが陳腐だ、という声が大きいようだが、大型特撮映画における人間ドラマといえば、『家族の再生』と『自己犠牲』に決まっとるじゃないの。これさえやっときゃいいのよ。あとはドカーン、バリーンでノー・プロブレム!」

 初代原理主義 「オレはそんな風に割り切れないぞ。“オキシジェン・デストロイヤー”の名称だけ引き継いだ超兵器がなんの前触れもなく発射されたり、芹沢博士がゴジラのそばで核爆発を起こしたり、『怪獣出現の原因が人間の環境破壊』という前段があるからといえ、人間の科学力に対する批判精神が希薄すぎるんじゃないかね」

 原発活動家 「ものすごい放射線を発しているはずのゴジラの足元でうろちょろして、主人公たちの被曝量が気になります」

 考古学者 「それに、あの核爆発で吹っ飛んだ海底遺跡が惜しすぎます(涙)」

 映画史家 「まぁ、原爆問題が背景にある初代『ゴジラ』や9.11同時多発テロを意識した『宇宙戦争』など、現実世界への批評として機能する特撮映画がある一方で、スペクタクルと娯楽要素で大衆にサービスする、祝祭としての特撮映画というのもあるんです。60年代の東宝特撮がそうだったようにね。レジェンダリー版はそっちを正しくめざしてるとは思いますよ」

 脚本家志望者 「シリーズ化を念頭に置く以上、東宝チャンピオン祭りを狙うのは当然の判断ですが、やりたいことが多すぎてごった煮のまま提出された感は否めないですね。でも、いろんな人の意見が雑然と並んだのではなく、監督の好みが暴走した感じだから、これでいいのかな?」

 コングファン 「『キングコング:髑髏島の巨神』では、ベトナム戦争や『太平洋の地獄』オマージュが怪獣バトルを立てる要素として引用されてたけど、うまいものだと思ったよ。次の『キングコング対ゴジラ』リメイクにはどんなアイディアが投入されるか、今から楽しみだなぁ」

 ディズニーファン 「ゆくゆくは『ライオン・キング』のような『ゴジラの息子』リメイクもお目にかかれるってことでしょうか?」

 映画音楽家 「それはべつに観たくない(笑)。しかし庵野監督の『シン・ゴジラ』に続いてハリウッド版でも伊福部昭リスペクトを聴かせるんだねぇ。古関裕而の『モスラの歌』まで入ってくるのは正直、たまげた。マニアの心性ってものが日本と外国で差がなくなりつつあるのを感じる。これでいいのかなぁ?」

 庵野秀明ファン 「ゴジラよりも『地球防衛軍』や『日本沈没』などの大状況描写に関心がある庵野監督が<好きにした>『シン・ゴジラ』同様、こちらも大の怪獣ファンであるマイケル・ドハティ監督が<好きにした>作品なのは間違いないですね」

 愛犬家 「いやー、これはねー、一般の怪獣映画以上に、動物映画の意味合いに近い『怪獣映画』だと思ったよ、ウン」

 古典芸能愛好家 「20年前のローランド・エメリッヒ監督『GODZILLA』では、正直、外国人が演じる歌舞伎を観るような違和感があったと思うんです。でもレジェンダリー版は、怪獣への愛情と理解が深い世代によって、日本人も興奮させるゴジラ映画を作り上げた。今、日本人やアジア人が演じるオペラやシェークスピア劇に西洋人が足を運ぶ例があるように、ゴジラ映画もいろんな外国のファンに作ってもらいたいし、日本人の監督がハリウッドでゴジラ映画を撮ることも期待したいですね」

 殺陣師 「音響と破壊描写でごまかされがちだけど、肝心のプロレスアクションはまだまだ発展途上だよな。それとドハティ監督、芝居の演出がカメラを振り回しすぎの割りすぎでめまぐるしい。その辺は前作のギャレス・エドワーズ監督の方が、レイアウト感覚に秀でていたように思うぞ」

 心配性の男 「怪獣文化のグローバル化はいいんですけど、東宝MCU映画を参考にゴジラ映画のシリーズ化を再検討してるって話がありませんでしたっけ。アメリカにこれだけの財力と技術力で怪獣を描かれたら、とても拮抗できないんじゃないですかね」

 楽観的な女 「まぁ、『シン・ゴジラ』は日本人にしか撮れないゴジラ映画だったことは間違いないんだし、ここはガラパゴス化を恐れず、新鮮かつ大胆な怪獣映画のイメージを提案し続けるのが本家の役割じゃないかしら。派手なバトル映画はハリウッドにまかせとけ! 人材はいくらでもいるでしょ」

 キラアク星人 「エンディング後のあのラスト、いずれキングギドラが復活して『怪獣総進撃』リメイクが作られると期待していいんでしょうか? その暁にはぜひ宇宙人枠の復活を」

 事情通 「うーん、東宝怪獣は一体ごとに高額な使用料がかかるらしいので、往年の怪獣が揃い踏み、という設定は難しそうですね」

 ジラース 「みんなエリマキをつければいいのだ」

 

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