「こんちは〜、4年ぶりに今年の映画ベストテンを伺いに参りました」
「何も下半期にぜんぜん映画を観られなかった年に復活することないじゃないの。『ジョーカー:フォリ・ア・ドゥ』も『グラディエーターⅡ 英雄を呼ぶ声』も『憐みの三章』もまだ観られてませんよ」
「ダメだなぁ。いまだに『地面師』すら観てないんでしょう?」
「それでも、どうにか印象に残った作品を5本選んでみた。けっこう豊作な印象があるから、ちゃんと観続けられていたら、そうとう悩んだかもね。」
◯『密輸1970』(リュ・スンワン)
◯『オッペンハイマー』(クリストファー・ノーラン)
◯『パストライブス/再会』(セリーン・ソン)
◯『市民捜査官ドッキ』(パク・ヨンジュ)
◯『フォールガイ』(デヴィッド・リーチ)
『ソウルの春』(キム・ソンス)
「ほう、韓国映画が多いですね」
「今年観た韓国映画はどれもよくできていたが、実話ベースの作品の脚色テクニックには、大いに学ばせてもらったよ」
「日本映画がありませんが」
「そういえばそうだね。好きだった作品を挙げると、金子修介監督の『ゴールドボーイ』とか黒沢清監督の『Cloud クラウド』あたりかなぁ」
「三宅唱監督の『夜明けのすべて』と濱口竜介監督の『悪は存在しない』は?」
「どちらも大変見応えのあった作品だけど、好きではない。似たような感触の作品に、『落下の解剖学』と『関心領域』があるな。サンドラ・ヒュラーには演技賞をあげたいけど。それに、今年は河合優美が演技賞総ナメかもしれないが、『あんのこと』も『ナミビアの砂漠』もそんなに感心しなかった」
「でも、日本映画では小規模作品に社会派的なテーマを持った作品が増えてますね。これ自体はいいことでは?」
「そうなんだけど、問題を“リアル”に追うことが“誠実さ”の証と勘違いしてるんじゃないかな。リアリズムというのは決して表面的にもっともらしく装ったり、即興演技させれば宿るものじゃないと思う。その辺は韓国映画の巧みさにすっかり水をあけられてるし、観客が『侍タイムスリッパー』の方につめかけるのは当然でしょう」
「しかし能登半島地震に羽田空港の事故と、幕開けが凄まじかった2024年ですが、振り返ってみるといかがですか?」
「やはりロシアのウクライナ侵攻とイスラエルのガザ攻撃がいっこうに収束の見通しが立たないことに代表される『不安』の醸成がいっそう高まった一年だったんじゃないの? 解決しそうにない所得格差に異常気象、そして治安悪化が重なり、老いも若きも安定を求める心情が、あちこちの選挙結果に現れている」
「トランプの再選をはじめ、都知事選での石丸伸二ブームや、衆院選での国民民主党の躍進、兵庫県知事選での斎藤元彦知事再選といった流れのことですね」
「ディケイド(十年期)の雰囲気はだいたい4年目で決まる、と言う説をどこかで読んだことがあるけど、そうすると2020年代というのは、モバイル通信とソーシャルメディアの拡大によって、人間の生活を激変させた2010年代が早くも行きづまりを見せる年代ということで確定なのかもしれない」
「えらく悲観的ですねぇ。 ChatGPTをはじめとするAI技術や、電気自動車にドローンの発展といったテクノロジーの進歩が、さらなる激変をもたらすかもしれませんよ」
「“戦線から遠のくと、楽観主義が現実にとって変わる”(©️後藤隊長)でなきゃいいけどね」
「10年といえば、このブログも開設10周年を迎えました」
「そんなに経ったの? 完全に忘れてた」
「前身のブロマガ『スローリィ・スローステップの怠惰な冒険』が2014年4月開始ですからね」
「ははぁ……。2014年度のベストテンを読み返すと、1位に『LEGO(R)ムービー』を挙げてるなぁ。2位がフィンチャーの『ゴーン・ガール』か。しかしまぁ、この10年、いろんなことがありました」
「それにしては、体重以外に変化がありませんね」
「悪かったな」
「10年前のコメントでも『来年からは、映画のベストテンではなく、テレビドラマやドキュメンタリー、演劇公演、美術展などもひっくるめた見せ物ベストテンで選出しようかな、と思ってるよ。』なんて書いてますけど」
「いや、これはもう、来年こそ本当にそうするかも。イーストウッドの新作も配信オンリーだし、今年観たどの日本映画よりも、テレビドラマの『光る君へ』や『燕は戻ってこない』、『新宿野戦病院』、『海に眠るダイヤモンド』の方が面白かったからね。それに、来年は舞台や展示をもっと観たいと思っている。そして、できれば自分でも何か面白いことを始めたいな」
「ほほう、期待してお待ちしてますよ。では、来年もよろしくお願いします」