「あけましておめでとうございます」
「まだちょっと早いよ」
「年末年始は忙しいんですよ。片付けられるところからさっさと片付けないと」
「正月前に届く年賀状みたいな奴だな」
「では、今年のベストテンを伺いますのでさっさと答えてください」
「年々劇場で映画を見る数が減っているので、今年はナショナルシアター・ライブの『誰もいない国』とか、『デヴィッド・ギルモア ライブ・アット・ポンペイ』といった非映画作品やテレビドラマも混ぜ込んだ映像作品総合ベストを選出しようかと思っていたんだけど、いざ並べて見たら、すんなり10本並んでしまった。そのまま公開しよう」
4.バーフバリ 伝説誕生(S.S.ラーフジャウリ)
5.パターソン(ジム・ジャームッシュ)
7.哭声/コクソン(ナ・ホンジン)
8.スター・ウォーズ/最後のジェダイ(ライアン・ジョンソン)
9.我は神なり(ヨン・サンホ)
10.ハートストーン(グズムンドゥル・アルナル・グズムンドソン)
「ほう、1位2位にクリストファー・ノーランと黒沢清が並びましたね」
「なんだかんだ言って、結局今年は『ダンケルク』の年だったと思うなぁ。『ダークナイト』は好きだけど、他の作品は肌合いがイマイチだったノーランも、『インターステラー』からちょっと変わってきた感じだね。『散歩する侵略者』は、『トウキョウソナタ』以後はピークが過ぎた印象があった黒沢清が、ここまで面白い作品を撮ってくれたのがとても嬉しくて。スピンオフドラマをつなげた『予兆 散歩する侵略者』はまだ観てないけど、必ず観ます」
「ヨン・サンホの映画が2本入ってますね」
「この人はこれから追いかけたい才能だな。日本だとアニメーションの演出家が作家性の強い実写作品を撮るケースがいくつかあったけど、アチラでは『我は神なり』のような渋いアニメを撮る人が、実写に向かうと『新感染 ファイナル・エクスプレス』のような上出来なゾンビ映画をきっちり撮るんだね。その辺の違いも面白い」
「そしてインド映画の『バーフバリ 伝説誕生』ですね。評判の『王の凱旋』は観たんですか?」
「ごめん、間に合わなかった。でも正月第一週のうちには観に行くよ。正直、この前編だけなら7位か8位ぐらいに入れようかと思っていたのだけど、今、胸の内で『王の凱旋』への期待がむくむくと膨れ上がっているので、この順位は前後編合わせてのものと解釈してもらっていい」
「確かに、見終えたら『バーフバリ!』と片手を振り上げてコールしたくなる作品ですね」
「なんか、今川泰宏監督のアニメ(『ジャイアント・ロボ』、『機動武闘伝Gガンダム』)みたいだったね。今川監督は香港のツイ・ハークなどの武侠映画に影響を受けたそうだが、その香港映画は60年代の大映時代劇や日活アクション、マカロニ・ウエスタンに影響を受けているわけで、ひたすらケレンで押しまくるバロック的娯楽映画の現代到達点として評価したい」
「ところでジム・ジャームッシュをベストテンに入れるなんて珍しいですね。嫌いだったのでは?」
「80年代にはあのスカした作風が苦手でねぇ。どうも縁の遠い人だと思っていたし、今世紀に入ってからの新作はどれもしんどかったんだけど、『パターソン』はじつによかった。これはアダム・ドライバーのおかげかもしれない。どうもあのヌメッとした顔を見ると倒錯的な気分にさせられるのだよ。『沈黙 サイレンス』、『ローガン・ラッキー』、『最後のジェダイ』と続いてノッてるし、今年の男優賞をあげたい」
「そしてエドガー・ライトとナ・ホンジンが続きますね」
「『ベイビー・ドライバー』はもしかしたら今年の1位にしてもいいかも……と思った作品だけど、結局少し下がったね。しかし『ワイルド・スピード ICE BREAK』以上に車が走る描写は官能的だったな。『哭声/コクソン』は『我は神なり』と同じく<田舎>と<信仰>がモチーフのサスペンスで、どうも私はこのテーマが好きらしい」
「そして『スター・ウォーズ/最後のジェダイ』ですが、ずいぶん評価が割れてますね」
「『ゴジラ』や『ヤマト』同様、『スター・ウォーズ』もファンがそれぞれ<理想像>を抱え込んでしまっているから、誰がどうしたって文句は出るわけだが、ライアン・ジョンソンは果敢に正史に切り込み、固定された正典の改竄作業を見事にやってのけたと思う。『BRICK』を観た時からセンスと演出力に信頼を置いている監督だが、期待は裏切られなかったね」
「そうですか? ドラマが拡散しすぎた上に尺が長すぎてどうものめりこめなかった印象が拭えないのですが……」
「そ、そう? わたしはいちおう、幼少期に『スター・ウォーズ』の第1作(ep.4)を劇場で観ているのね。スター・ウォーズ刷り込み世代としては感慨深い演出をたっぷり見せてもらえただけでジーンと来るのよ。あまりシリーズ全体に思い入れはなくて、ep.1~3の新三部作も、『フォースの覚醒』もほぼ付き合いで観に行ったようなものだったけど、これだけはスター・ウォーズと共に年齢を重ねてきた世代としては、成長した幼馴染の活躍を観るような楽しさがあった」
「はいはい、ノスタルジーってことですね。ところで『ハートストーン』というのはアイスランドの映画ですか?」
「うん、アイスランド映画は初めて観た気がするが、いい青春映画だった。新人監督の一作目で、中盤かなりダレる箇所もあるが、大自然を背景に跳ね回る主人公の少年2人の眼差しと手足がとても目に快くて。今年は『ムーンライト』もよかったけど、わたしとしてはこっちを採ります」
「つまり美少年推しの枠ですね」
「『ハートストーン』をLGBT映画というジャンルに押し込めるのは問題あるかもしれないけど、木下惠介的な少年同士の友情映画に興味ある人にはお薦めです」
「次点は『レゴ・バットマン ザ・ムービー』ですね」
「コメディ枠代表にしたかったがはみ出ちゃった。他にホドロフスキーの『エンドレス・ポエトリー』や白石和彌『彼女がその名を知らない鳥たち』、大九明子『勝手にふるえてろ』も印象に残ってる。今年は全体に面白い映画が多かったよ」
「『ラ・ラ・ランド』は?」
「わたしは買わない」
「『ブレードランナー2049』は?」
「あの監督なら『メッセージ』の方がよかったな。あと、評判の『ありがとう、トニ・エルドマン』、『女神の見えざる手』、『花筐/HANAGATAMI』は年が明けたら必ず観るつもり」
「さて、そろそろ初詣に行く時間なので失礼しますよ。最後に来年の抱負をどうぞ」
「ここで抱負って何を言うのよ? ま、あまり面白みのないベストテンですみません。来年はより刺激的な映像体験を送りたいと思います」
「では2018年度もよろしくお願いしますね!」