星虹堂通信

旧ブロマガ「スローリィ・スローステップの怠惰な冒険」の移転先です

2015年恐竜の夏〜『ジュラシック・ワールド』とふたつの恐竜博

 

 

 夏だ! 恐竜だ!

 生来の夏好きである私ですが、その理由を考えるに、8月生まれということがひとつ、そしてもうひとつの理由として「夏休み=恐竜の季節」というのが挙げられると思うのです。

 そんなわけで、なにはともあれ観てきましたよ、コリン・トレボロウ監督『ジュラシック・ワールド』。
 見世物映画の王道を行く華やかな絵作りを堪能しました。え? あれだけ恐竜大パニックをくり返したインジェン社がなんで潰れずに同じコンセプトの遊園地を開けるのかって? そんなもん、ジェイソンがいくら人を殺しまくったところでクリスタル・レイクには毎年懲りない若者が集まるのと同じことじゃありませんか。もっとも恐竜島の周囲に、過去シリーズの犠牲者遺族がジュラシック・ワールド断固阻止!」のノボリを掲げてデモ活動する様子が描写されていたら、よりリアルだったかもしれません。

 今回嬉しかったのは、私のひそかなお気に入りであるブライス・ダラス・ハワードが、ちょっと高慢そうな赤毛の支配人・クレアを演じていたことです。ピーター・ジャクソン監督の『キング・コング』では、ナオミ・ワッツが裸足でジャングルを全力疾走し、観客の度肝を抜いたものですが、『ジュラシック・ワールド』のブライス・ダラス・ハワードはハイヒールでジャングルのぬかるみを駆け抜けるという難技に挑み、この図太そうな女ならそのぐらいは軽くこなすだろう、と妙に納得させてくれたのだからたいしたものです。

 今回は、インドミナス・レックスというバイオ技術で作成された新種肉食恐竜が敵役を演じると聞き、「えー、新種ー? わかってねーなー、そんな紛い物恐竜なんて見たくねぇよ!」とかすかな反発を覚えたものですが、いざ作品を見るとこれがなかなか世界観に溶け込み、違和感がない。
 そもそも、『ロスト・ワールド』(1925)、『キング・コング』(1933)、『恐竜グワンジ』(1967)など伝統派恐竜映画に出てきたのが「どういうわけか現代に生き残っていた恐竜たち」だったのに対し、『ジュラシック・パーク』シリーズでは「遺伝子操作技術で人工的に甦った恐竜たち」が描かれてきたわけですね。そもそもあの恐竜たちはオリジナルではなく、一種の「ゴジラ」なのです。それが人間の制御を超えて大暴れ、テクノロジーを過信した人間たちは、結局科学によって報復されるのだ……というシリーズの図式、あきらかに『フランケンシュタイン』のパターンなのです。
 そういう意味では、「ぼくのかんがえたさいきょうの恐竜」であるインドミナス・レックスが脅威となる今回の『ジュラシック・ワールド』は正しく原点回帰した物語であり、「ティラノサウルスよりデカいから」という理由で、魚類が主食で体格も華奢なスピノサウルスに悪役を演じさせた『ジュラシック・パークⅢ』より無理がないと思います。
 むしろ、慣れてしまえばインドミナス・レックス、シルエットが地味すぎるのが物足りなく感じたほどで、「もっと角をつけるとか翼が生えるとか毒霧吹き出すとかギミック足してもよかったのになぁ!」などという不満が口をつくのだから現金なもの。せっかくの擬態(保護色)能力も、一度しか見せてくれないのはもったいない。草薙素子光学迷彩ばりにじわりと現出する場面をもっと見せてほしかった。ま、あまりにハッキリ「怪獣」にしてしまっては、それはそれで興ざめだったかもしれません。

 そのほか、シリーズにつきものの悲鳴を上げる子供たち(今回は男兄弟)が、両親の離婚問題を憂いているという設定の割に、もうひとつ印象不鮮明だったり、VFXの発達により恐竜が相当数のシーンで登場できるようになったためか、全体にシンプルなパニック映画へと傾きすぎ、サスペンス映画としての「手」が乏しいなど、食い足りなさを覚える部分も多いのですが、この種のアトラクション映画でそういったお話の語り口や人間描写をぐちゃぐちゃ言うのは無粋なもの。なるべく簡潔なドラマ展開の中に恐竜が活躍する「絵」を差し込むことに注力したコリン・トレボロウ監督のバランス感覚を讃えたいところです。男兄弟が母親との関係を回復する構図と、主人公(クリス・プラット)とラプトルたちとの関係回復を呼応させつつ、クライマックスでは湿っぽさを排して大怪獣バトルに展開したのも潔いじゃありませんか。『ジュラシック・パークⅢ』ではスピノサウルスの噛ませ犬に堕してしまったティラノサウルスが、今回は最後の最後で大見得を切る役があてがわれ、いやまったく良き哉、良き哉。

 特撮面では今回、一作目以来となるフィル・ティペットがアドバイザーとして復帰、恐竜の動きの監修をしていると知って感無量でもありました。レイ・ハリーハウゼンを継ぐストップ・モーションアニメーターとしてその腕を発揮していたティペット(もちろん恐竜マニアである)が、『ジュラシック・パーク』でも恐竜の全身ショットを担当するはずが、デニス・ミューレン率いるILMによるCG恐竜の登場によってその座を追われ、「ぼくらは絶滅だ」と寝込んでしまったのは有名な話。結局、ティペットはCG恐竜の監修を担当したのですが、『ロスト・ワールド/ジュラシック・パーク』、や『ジュラシック・パークⅢ』ではお呼びがかからなかったようなので、今回の復活はファンとして嬉しいものです。
 

 

フィル・ティペットが製作した『ジュラシック・パーク』キッチン場面のデモ映像
(本編もこの動きを手本に作られている)

 実際、1993年公開の『ジュラシック・パーク』に登場したCG恐竜はわずか7分、それ以外はスタン・ウィンストンが開発したロボット恐竜や、パペット式の着ぐるみ恐竜をワイヤーで操作するものが使われていたのです。それが22年後の『ジュラシック・ワールド』になると、ロボット恐竜は傷ついて横たわるアパトサウルスのみでほぼCG恐竜一色。かつては関節の可動部分や皮膚のたるみなどの微細な表現に限界が感じられたCG恐竜ですが、今回はかなりの質感を獲得しており、ILMの技術力の高さとたゆまぬ研究努力を感じさせます。
 また、今回のCG恐竜は『キング・コング』や『ゴジラ GODZZILA』同様、モーション・キャプチャーで俳優が演じた動きをコンピュータに取り込んで演技の基礎を作り、そこにCGをかぶせてフィル・ティペットら専門家の演出が加わって完成するという、着ぐるみ特撮と人形アニメとデジタル技術が合体した、VFXのひとつの到達点のようなもの。いずれもう一度観に行って、細部をチェックしたいところです。特にインドミナス・レックスが子供たちの乗ったジャイロスフィアを丸かじりしようとしてくわえ切れず、つるんとすべってしまう場面や、インドミナスがヴェロキラプトルたちと「会話」して転向させる場面なんて、アニメートする側の芸が感じられて楽しかったなぁ。インドミナス対アンキロサウルスの場面、ちゃんとアンキロサウルスをひっくり返して動けない形にしてから喉笛に噛み付くアクションもじつに見応えありました。

 恐竜好きとしては、今回はやはりヴェロキラプトル姉弟の活躍ぶりが素晴らしい。ゲートから放たれ、クリス・プラットが乗るバイクと並走する場面や、クライマックスでのプラットとの交流場面は泣かせます。プラットはラプトルに命令を出す時になんかカチカチとクリック音を鳴らしていたけど、あれは犬笛みたいなものなんですかね。『ジュラシック・パークⅢ』ではラプトルの共鳴孔を模した笛が登場し、グラント博士が「会話」らしきものをしたのだけど、あの研究はその後どうなったのでしょう。

 そういやこのシリーズですっかり有名になった恐竜「ヴェロキラプトル」ですが、現在では体長わずか2m、体格としてはせいぜいコヨーテサイズでしかなく、外皮は羽毛に覆われていたことまでわかってきています。『ジュラシック・パーク』製作時には同じく小型肉食恐竜である「デイノニクス」と混同されていたため、スピルバーグヴェロキラプトルの名を気に入り採用してしまったわけですが、どう見ても体長4mはありますよね。しかし「デイノニクス」よりひとまわり大きい「ユタラプトル」もその後発見されているので、「ラプトル」と呼称する分には嘘じゃない……のか?
 また、今回はプテラノドンやディモルフォドンなどの翼竜の群がヒッチコックの『鳥』ばりに群衆を襲いかかるのが見せ場のひとつ。『ジュラシック・パークⅢ』では、プテラノドンが子供を掴んで巣まで持ち運ぶという描写があり、「滑空飛行に特化するため骨まで軽量化したプテラノドンがあんな重い物運べるワケねーだろ!」とマニアからツッコまれたものですが、『ジュラシック・ワールド』のプテラノドンは、大きめの個体が人を掴んで持ち上げてはすぐ離す、という動作に変更されており、獲物を弄んでいるのか地面に叩き付けて弱らせるつもりなのか、生物的な不気味さがよく出ています。 
 さらにそのプテラノドンを海面から飛び上がって補食するモササウルス、初めての海棲爬虫類の登場も嬉しいったらありゃしない。「ちょっとデカすぎないか?」という声も上がっているようですが、確かにエサのホオジロザメを丸呑みするアイツは全長20mは下らない感じでしたね。現在のところ、モササウルスの最大級は18mということですが……まぁ、もっと大きいやつがいたかもしれないし、そもそも遺伝子操作で生まれた生物ですからね。

 さて、恐竜映画を観たならば、次は恐竜博に行かなければなりません。



 今年は3年ぶりに幕張メッセでの恐竜博が復活しました。
今世紀に入ってからの幕張恐竜博としては7回目。もちろん私は皆勤賞! これまでのタイトルを並べるとこの通り。

世界最大の恐竜博2002

驚異の大恐竜博2005 起源と進化〜恐竜を科学する

世界の巨大恐竜博2006 生命と環境-進化のふしぎ

恐竜大陸(2008)

恐竜2009-砂漠の奇跡-

世界最大 恐竜王国2012

メガ恐竜展2015 巨大化の謎にせまる←今ココ!

 最大・巨大のオンパレードである幕張恐竜博。会場は、メッセ最大の7ホールか、11・12ホールをぶち抜きにして行うのが通例だったのですが、今回の「メガ恐竜展2015」はなんと11ホールのみ。つまり例年の半分! だから博覧会の「博」ではなく、展示会の「展」になったのか?
 <メガ>を謳いつつ規模半減とはこれいかに。しかも料金も例年の半分かと思えばまったくそんなことはないのです。いささか胡乱な気分で会場に入れば、第1コーナーは「地球には巨大生物が暮らしていた」というコンセプトで、最大のアンモナイトだのカルカロドンの口骨だのマチカネワニだのクジラの祖先バシロサウルスだのが並び、しかも大半がレプリカ(複製)。果てはマンボウタカアシガニリュウグウノツカイの標本まで並び、スペースを埋めるのに必死です。
 恐竜化石あんまし集まらなかったのね……とさびしい気分になりかけますが、巨大海洋生物展と思えば、それなりに見応えのある標本がそろってます。先へ進めば、今回のメインコンセプトである「竜脚類」コーナーへ。竜脚類とは、ブロントサウルスやブラキオサウルス、ディプロドクスに代表される、長い首と尻尾を持つ、四足の巨大恐竜のことです。
 今回はヨーロッパ最大の竜脚類恐竜トゥリアサウルスが日本初上陸とのこと。さてその勇姿を拝ませていただきますよ……と覗いてみれば、なんと復元骨格は前半分のみ!

 


トゥリアサウルス 後ろ半分は背景のイラストにつながっている

 過去の幕張恐竜博では、それぞれセイスモサウルスやスーパーサウルス、マメンチサウルスなど、主役となるべき巨大竜脚類が会場の中央をどーんと鎮座ましましていたものです。それが今回は半分だけ。30m級の竜脚類の展示がこれとは拍子抜けもいいところでした。よく見れば、後ろ半分は背景幕のイラストにつながっているという、涙ぐましい工夫がなされています。
 トゥリアサウルスはごく最近にスペインでかなり良質な化石が発掘されたそうで、てっきりそれが組み立てられたのかと思っていたのですが……。復元骨格もいかにもレプリカっぽいチャチな出来で威厳も含蓄も感じられなかったのは残念。もちろん、その前方には頭骨の一部や、歯など実物化石の展示があり、こちらはじっくり観察できます。トゥリアサウルスはディプロダクス類ともティタノサウルス型類とも異なる単系統の竜脚類とされており、今後の研究が楽しみな恐竜です。


竜脚類の糞化石 「実物」(複製じゃないよ、の意)の赤文字が味わい深い

 もちろんトゥリオサウルスの周囲には、中国で発見されたエウヘロペスがブラキオサウルスによく似た前足長めの体勢で全身骨格を見せていたし、実物化石である頭骨展示にはほれぼれします。竜脚類って頭部が小さくて外れやすいので、化石として残ることがきわめて稀なんですよ。
 ほかにも、マメンチサウルスの亜成体や、カマラサウルスの亜成体、さらに白亜紀に入ってからどこかの島で小型化した竜脚類エウロパサウルス(6mほどしかない)などが並び、華を添えていました。それらを見せつつ解説キャプションが竜脚類の「巨大化」について解説する展示構成となっており、そのメカニズムはきわめてわかりやすく書かれていたと思います。


ティラノサウルス(右)と並ぶライスロナックス(左)

 白亜紀の獣脚類コーナーに移れば、ティラノサウルス・レックスの全身骨格と並んでいたライスロナックスが目を引きました。
 これは、最近発見されたティラノサウルス類の新種恐竜で、ティラノサウルスより1000万年ほど古い時期にいた恐竜。直接の祖先ではなさそうだけど、同系列から枝分かれした種と考えられています。ライスロナックスとは「流血王」という意味だそうで、ヨーロッパの王族にいそうな感じがイカしてますな。

 と、馴染みのレストランのフルコースが急に貧弱なメニューになってしまったような物足りなさを覚えた今年の幕張恐竜博ですが、なんと横浜の方でももうひとつ開催されていたのですね。



 横浜の恐竜展は、去年も「ヨコハマ恐竜博2014 新説・恐竜の成長」があったばかり。今年もやるとは思いませんでした。幕張・横浜合わせ技一本とは、凝った真似をしやがって……。入場料金をどんだけふんだくれば気が済むのだ! などと呪いの言葉を呟きながらも恐竜展であれば足取りは軽くなってしまいます。恐竜オタの中には、一日で幕張と横浜をハシゴする人もいるのでしょう。暑い中、ご苦労様です。
 さて会場はパシフィコ横浜の展示場Aホール。大きさとしてはメッセの「メガ恐竜展」と変わりないか、少し小さいかもしれません。


新種と考えられるモササウルス

 だがこちらは入るといきなりモササウルスの新種化石(ハリサウルスに近縁だとか)がデンとお出迎えしてくれて、訪れるマニアの魂に火をつけてくれます。尾の先端部は変形していたため取り付けられていませんが、ほぼすべてが実物化石のじつに美しい標本で、全長5mほどの巨大な海竜が水中をうねりながら前進する様を想像すると、すっかり気分が昂揚します。『ジュラシック・ワールド』でのモササウルス先輩の勇姿を覚えているファンには応えられない贈りものです。


アンモナイトが宝石化した「アンモライト」

 さらに三葉虫アンモナイト、ウミユリなどのシルル紀デボン紀ごろから海中を彩った海洋生物の化石コーナーも多種多様な標本が揃っており、自然による造形美の奥深さを堪能させてくれます。特に、アンモナイトが宝石化したアンモライトの巨大な標本が三つ並んでいましたが、見る角度によって万華鏡のごとく光彩が変化するさまには陶酔するほかありません。


ステゴサウルスの仲間ヘスペロサウルス 背中の剣板が楕円形

 奥へ進めば、ジュラ紀の恐竜たちがぞくぞくと並びます。復元された剣竜の全身骨格は、どう見てもステゴサウルスですが、これは80年代になってからアメリカで発見されたヘスペロサウルス。ステゴサウルスよりやや古く、原始的な種らしいですね。確か2011年の上野科博での恐竜展にも来ていたやつじゃないかな。たぶん複製。
 背中のプレートの形が、やや楕円形で、ステゴサウルスのような五角形にはなっていないのが特徴です。


ステゴサウルス(複製っぽい) 喉を守る骨片がよくわかる

 ステゴサウルスはその隣にいました。下顎から喉にかけての部分、砂利のような骨片がちらばっていますが、あれは装甲です。弱点の喉笛を守っていたのでしょう。皮膚の中に埋没していたのか、鎖帷子みたいに黒々と首の下に貼り付いていたのか、想像すると楽しいものです。


アロサウルスの復元ロボット

 最近の恐竜博では、動くロボット恐竜が何体か設置され、子供たちの注目を集めるのが通例となっています。この会場にも、オウレストスクス、ブラキオサウルス、ポラカントゥス、アロサウルスなどのロボットが設置され、定期的に首を振ったり口を開いたりしてました。中でもアロサウルスはなかなかの出来映えで、ひときわ動きの表情豊か、怖くて近寄れない子供が何人もいるほどでした。


ティラノサウルス・レックス「ティンカー」

 そして獣脚類コーナーに入れば、新しいティラノサウルス・レックス復元骨格の登場です。「ティンカー」と命名されたこの個体、なかなか立派ですが幕張で展示されていたのよりやや華奢で小さいかな、と思えばまだ若い個体なんだとか。80年代までは20体ほどしか発見されていなかったティラノサウルス、現在は50体近くも発見され、その研究が進んでいますが全身骨格はまだ十数体しかありません。やや琥珀がかった実物化石でじっくり拝めるのはいいものです……が、後ろ半分はほぼ作り物らしいです。


いかにも複製なナノティラヌスの全身 ティラノサウルスの新種か若い個体か?

 ティンカーの前にはナノティラヌスの複製化石も展示されていましたね。ティラノサウルス類の小型種として注目されている恐竜ですが、最近では「たんにティラノサウルスの子供だったんじゃね?」説が登場。「森の中で独自の進化を遂げたティラノサウルス」という説もあり、議論が続いています。ティンカーとじっくり見比べてみるのも一興でしょう。


トルボサウルスの全身骨格

 そして肉食恐竜コーナーの中央にいたのが、トルボサウルス。モンゴルで発見された「タルボサウルス」ならよく知られてますが「トルボサウルス」です。「世界初公開! 全身骨格!」と煽りますが、こいつ以前にも会ったことあるような……と帰って図録を調べたところ、2002年の幕張恐竜博でも展示されていましたね。まぁ、あれはレプリカだったのでしょう。今回展示された標本は、2012年にアメリカ・コロラド州で発見された保存状態65%の化石に、20%の別の化石の複製をくっつけて復元した(残り15%は想像)もので、全長10m級のトルボサウルスとして初めてきちんと完成されたもの……ということならどの部分が実骨なのかちゃんと明記してくれるといいのに。
 大きさとしてはアロサウルスに並ぶ、ジュラ紀最大級の肉食恐竜ですが、アロサウルスに比べて小々華奢なようですね。なので、トルボサウルスは水辺や森を好んで走り回り、アロサウルスはサバンナに棲息していたのではないかと推測されています。とはいえ、そんな奴らがワンサカいると喧嘩や共食いも絶えなかったことでしょう……と思えば、そばにはアロサウルスとケラトサウルスが格闘しているポーズでの復元骨格が。なかなか躍動感に満ちたうまいポージングがなされていると思いました。


格闘するアロサウルス(上)とケラトサウルス(下)

 さて、この調子で残りも見られるならかなり充実した展示なのでは……と思ったら、残り1/3のスペースは、子供向け「恐竜縁日」コーナーとなっていたのでした(確か去年もそうだった)。恐竜すくい、恐竜釣り、恐竜射的……ロボット恐竜に乗ってお散歩できる「ダイノライダー」には大きいお友達としては心惹かれましたが、ちびっ子連れが大行列を作っていたので断念!


ヨコハマ恐竜博の後半は「恐竜縁日」コーナー……

 あと、最近の恐竜博と言えばCGを駆使した恐竜再現映像も楽しみのひとつですが、幕張の方では、トゥリアサウルスの歩行場面を再現したひとつのみ、ほかの映像は研究者による解説インタヴュー垂れ流しというものでしたが(しかもあまり面白い話をしてくれないんだ)、横浜の方は、それぞれメインの恐竜には復元CG映像がついているものの、歩行場面を360°クルクル回転させるモデリングサンプルみたいな感じです。背景に合成して演技をさせるところまでは予算がつかなかったみたい……。2002年の恐竜博ではセイスモサウルスを襲うアロサウルスの群や、現代の東京を闊歩するセイスモサウルスの勇姿が見られたものですが、主催にテレビ局が入らないときびしいのでしょう。
 その代わり、横浜の方には客がゴーグルを頭に装着して白亜紀の状況を360°の3D映像で体験する「白亜紀の世界」というスペースがありました(追加料金300円が必要)。上映時間はたったの5分、スティラコサウルスとティラノサウルスの対決を見物できるものでしたが、360°映像なので、うしろに振り向いてもちゃんと白亜紀の世界が広がって見えるのですよ。これが進化すれば、さらにユニークな映像ショーへと発展させられるのではないでしょうか。

 珍しい標本に肉薄できるのが嬉しいヨコハマ恐竜博ですが、残念なのは細かい標本のキャプションがやや不親切なのと、全体のコンセプトが見えづらく、展示を通して受け取るイメージが散漫なこと、そして図録が作られていないことです。
 帰路、化石の思い出に浸りながら図録をひもとき、最新の研究学説を読みふけるのが好きな恐竜ファンにとってはさびしいことこの上なし。古代の夢に心惹かれた子供が、資料として買ってもらった図録をためつすがめつするうちに、いつしか年季の行った恐竜ファンへと成長してゆくはずなのに、「恐竜縁日」のアトラクションで化石に触れた印象を吹き飛ばしてしまう構成で本当にいいのでしょうか?

 数年後には幕張と横浜がいっしょになったような堂々の大恐竜博を期待したいところです。