「あけましておめでとうございます」
「えらく呑気な年始の挨拶だな。正月が過ぎてもう2週間だぜ」
「すみません、私の家では時間の進み方が遅くて」
「つまりは『インターステラー』を見て来た、と」
「再会を祝してお年玉をください」
「やだね」
「しょうがないな、じゃあ昨年のベストテンを訊いてやるのでさっさと答えるがいい!」
「どういうつながりなんだよ、それは。しかし昨年はいろいろ忙しくてね。観られた新作はせいぜい80本。ちなみに旧作が60本弱。そんなヌルい奴のベストテンになんの価値もなかろうが、備忘録としてお気に入りを並べてみようか」
「あなたのベストテンになんの価値もないことは重々承知だから気にする必要などありませんわ」
「……とりあえず10本に絞るとこんな感じになる」
1.LEGO(R)ムービー(フィル・ロード&クリストファー・ミラー)
5.ベイマックス(ドン・ホール&クリス・ウィリアムズ)
6.毛皮のヴィーナス(ロマン・ポランスキー)
7.ザ・イースト(ザル・バトマングリ)
9.悪魔の起源-ジン-(トビー・フーパー)
10.リアリティのダンス(アレハンドロ・ホドロフスキー)
次 ニンフォマニアックvol.1&vol.2(ラース・フォン・トリアー)
「ほう、1位は『LEGO(R)ムービー』ですか」
「昨年のアメリカ映画では断トツに面白かった。レゴという、固定するものであり、同時に可変性に満ちたものでもある玩具を活用しながら、『型にはまる』ことの懸念や『他者とのつながり』の再確認など、実写映画でも描くのが難しい豊かな心理描写につなげる脚本が素晴らしい。しょーもない遊びにも満ちてるしね」
「いつだったか、『メアリー&マックス』を1位にした年もそうでしたが、コレという1位が見つからない時はアニメーション作品を挙げるクセがありますね?」
「ドキッ、鋭いね。確かに個人的に強く惚れ込む作品には出会えなかったかな。しかし苦手なデヴィッド・フィンチャーも『ゴーン・ガール』は『セブン』以上に面白かったし、ツイ・ハークやイーストウッド、ポランスキー、フーパーらベテラン勢も絶好調……。馴染みのベテランを追いかけるのに忙しくて、注目の小規模公開作をずいぶん見逃してしまった。そこは反省点だな」
「あれ、日本映画が入ってないですね」
「毎年2、3作は混ぜるんだが、昨年はどうも強く支持したい作品が見つからなくて」
「じゃ、キネマ旬報のベストテンと答え合わせしてみましょうか」
「答え合わせたぁ、なんだい。あれはあくまで人気投票で『正解』じゃないぜ」
キネマ旬報ベストテン2014
http://www.kinenote.com/main/kinejun_best10/2014/award/
<外国映画>
2.6才のボクが、大人になるまで。(リチャード・リンクレイター)
3.罪の手ざわり(ジャ・ジャンクー)
4.エレニの帰郷(テオ・アンゲロプロス)
7.リアリティのダンス(アレハンドロ・ホドロフスキー)
8.インサイド・ルーウィン・デイヴィス 名もなき男の歌(イーサン・コーエン)
9.ウルフ・オブ・ウォール・ストリート(マーティン・スコセッシ)
10.ラッシュ/プライドと友情(ロブ・ライナー)
<日本映画>
1.そこのみにて光輝く(呉美保)
3.紙の月(吉田大八)
5.ぼくたちの家族(石井裕也)
6.小さいおうち(山田洋次)
7.私の男(熊切和嘉)
8.百円の恋(武正晴)
9.水の声を聞く(山本政志)
10.ニシノユキヒコの恋と冒険(井口奈己)
10.蜩ノ記(小泉尭史)
「へぇー、キネ旬はまたイーストウッドが1位ですか。これでベストワン7度目!」
「まぁ、私も選出しているのでなんだが、あいかわらずの人気ぶりだね。1950年代の今井正みたいだな」
「『ジャージー・ボーイズ』は本国での評価がイマイチだったのに、日本では絶賛ぞろいなのが興味深いですね」
「イーストウッドとディズニーがいる限り、アメリカ映画は不滅、という雰囲気になりつつある。これはこれで頼もしいじゃないの」
「イーストウッドは84歳ですが……。ほかに、並んだ作品を見てご感想は?」
「驚いたことに、外国映画は10本全部観てるんだ。私ごときが補足できる範囲からしか選ばれないってのはマズくないか、と思ったが、これも映画環境の変化を示すものかもしれない。『映画』だけを観てヨーロッパのなになにがいい、と言ってればいい時代じゃなくなったのさ。その分、この種の『人気投票』の役割はますます限定的なものになってゆくだろう」
「リチャード・リンクレイターやジャ・ジャンクーが上位に来てますね」
「リンクレイターとしては『ビフォア〜』シリーズの方が興味深い仕事だと思うが……。ジャ・ジャンクーはひさびさにとっつきやすい作品だったし、面白かったけどはみ出ちゃった」
「ところで、アンゲロプロスを入れなくていいんですか?」
「いいんだけど、『エレニの旅』よりは落ちるな。ヨーロッパ勢では『イーダ』や『ヴェラの祈り』、『エレナの惑い』が気になっているから、これから追いかけて観るつもりだよ」
「日本映画の方は10位が同点で11本並んでます」
「こちらは11本中、7本観賞済みだ。1位の『そこのみにて光輝く』はまぁ、文芸映画の力作だからここに上がってくるのはわかる。しかし、ほかの並びを見てもイマイチ押しが弱い印象だ。『そこのみ~』の躍進は大きな失点がなかったのが幸いしたにすぎない、という見方もできるんじゃないか」
「『0.5ミリ』と『紙の月』はずいぶん上に来ましたね」
「正直、意外だった。どちらも細部の描写や設定に不可解な部分が多く、そこに含蓄を感じさせるならともかく、粗雑な印象を与えるものだったので、私としては買えなかったんだ」
「描かれる女性主人公にしても、『ゴーン・ガール』や『毛皮のヴィーナス』にくらべると、なんだかねぇ……」
「まぁ、人気投票の結果にグチをこぼすのはよそうや。なんだか『太陽を盗んだ男』がキネ旬2位だったことに怒り心頭だった大黒東洋士センセイみたいだぜ。あのセンセイらの世代は『批評家によるベストテンは利き酒師の判定のごとく正確でなければならぬ』というプライドがあったから文句タラタラだったんだけどさ」
「そういえば双葉十三郎さんも、『ぼくの採点表』では好みでない作品でも風格備わっていれば点数を増やし、プログラム・ピクチュアでお気に入りがあった時は点数を控えめにしつつも本文でホメる、ということをなさってましたね」
「淀川長治、津村秀夫ら明治大正世代の批評家はまず万人認めるであろう立派な作品でベスト5を構成し、残りの5作品に自分の好みを反映させる、という選出法をしてたようだ。70年代に入ってそういう『利き酒』スタイルの教条的ベストテンが崩壊したのは、映画そのものが多様化し幅が広がったのと、批評の方法論もより深化したからだろうが、そこからさらに40年、現代のベストテンは時代に対応できているだろうか?」
「映画が『映画館で上映されるモノ』であるうちは、慣習として開催されるんでしょうがね」
「来年からは、映画のベストテンではなく、テレビドラマやドキュメンタリー、演劇公演、美術展などもひっくるめた見せ物ベストテンで選出しようかな、と思ってるよ。新作鑑賞に割く時間は昨年よりぐっと少なくなりそうだしね」
「いや、誰も期待してないからべつにいいですよ」
「……とりあえず、見逃して残念なのは『水の声を聞く』と『野のなななのか』。評判の『百円の恋』はこれから観るよ。楽しみだ」
「そんじゃま、今年もよろしくお願いします」